『パラノーマル・アクティビティ4』 ナンバリングタイトル4作目にしてパロディに至る

ここ数年のハロウィン期定番映画『パラノーマル・アクティビティ』の5作目。今回は全くお話が進まないので、観なくていいタイトル。90分間何度も観てきたよくわからない怪奇現象が起こり続けるだけだ。ただし主演の娘はとてもかわいくて、自らカメラに近寄ったりしてくれるので眼福ものである。

本作最大の特徴はずばりシリーズの安易なパロディ/オマージュ化である。定番の怪奇現象やびっくり演出はところかまわず表面化し、かつストーリー上一切不要で、「パラノーマルといえばコレだよね?」という製作者の意図が透けて見える。真新しいことはなにもない。マジでシリーズ中最も不要なタイトルである。なので特にこれ以上書くこともない。
だがせっかくなのでこのシリーズのもう一つの特徴であるカメラについて触れてみる。今回の撮影カメラはPCについているカメラをメインにしている。なるほど僕がコレを書いているPCにもついている。劇中のビデオチャット機能の使い方も悪くない。相変わらず撮影/記録メディアとその使い方にはこだわりを感じる。キネクトによるモーションキャプチャ機能とカメラの赤外線モードの合わせ技で幽霊の撮影が可能というのもおもしろい。斬新さや設定からして、もはやこのシリーズのジャンルは「ホラー」というよりも「カメラ」というほうが適しているのかもしれない。

アウトレイジ ビヨンド

北野武最新作にして初の続編『アウトレイジ ビヨンド』鑑賞。初日初回を観るほどに楽しみにしていた作品。おもしろかった。が、肩すかしを喰らったなぁという印象もある。それは「バカヤロー!」「コノヤロー!」といった罵り合いが意外と少ない点だ。前作の最大の魅力はそこだった。怒鳴り声から生まれるズバ抜けた娯楽性、快楽性に魅了された。本作も公開前のインタビューや番宣番組から想像されるのはその点を引き継いだものだった故にそのような印象になってしまった。
たとえば関西の花菱会に喧嘩を売りに行くシーン*1、そこでは関西弁VS関東弁の対決になるのだが娯楽性よりも気まずさが上をいく。それは当然狙ってやってるわけだが。
殺す、殺される過程においても割と淡々としていて、主要人物のそれも省略される。シーンとしては描かれていても画面外で起きていたり。演出、編集のバランスは『アウトレイジ』と『ソナチネ』など*2の中間に位置する作品に感じた。
一方、画面作りは非常にすばらしい。予告篇を観てもらえればわかると思うが撮影はもちろんのこと特に照明の具合がよく、影の付き方がとにかくいい。悪い奴ほどよく陰る。影をつくるため(といっていいともう)に顔中しわくちゃにする役者陣の演技も完璧だ。
アウトレイジ』の続編ではあるものの違う作り方がなされたものとして見るのがいいかと。前作のラストが大きく絡んでくるので未見の方は鑑賞後に。

*1:物語の展開上は「お願い」に行く場面なんだけど大友はほとんど初めから喧嘩をしにいってるようにおもう

*2:あくまで初期中期作品群の一例としての『ソナチネ』です。

日本よ、これぞ映画だっ!!『ロボット』完全版

インドのSFアクションコメディ『ロボット』その“完全版”を鑑賞。大傑作。先に公開されていた“カット版”はだいぶ前に観ていてその時点で超がつく面白さ。年間ベスト1はすでに確定していた。そして公開されてだいぶ経つがついに“完全版”を観ることができた。
バシー博士10年の研究の末生み出されたロボット“チッティ”。非常に優秀で人間の命令に忠実ながらも「善悪の区別がない」という欠点を指摘された博士はふとしたことをきっかけに彼に感情を持たせることに成功。しかしその結果ロボットは博士の彼女に恋をしてしまい悪の道に染まっていく。
とにかく楽しい!幸せ!!最高!!!
この映画を「バカ映画」ということは容易い。突如挿入される歌とダンス(しかもロケ地はストーリーになんらカンケーない世界の観光名所)、ロボットと蚊の会話(!)、終盤のアクロバティックなアクション。確かに荒唐無稽だ。だがアレを実現させるのは非常に困難である。だってあんなの思いつかないもん!この映画はアイディアの洪水だ。とめどなく流れ出るそれは時に残酷でショッキング、ときに極上の幸福感をもたらす。そのひらめきに涙する。
そのアイディアを表現するための技術もまた高い。ジャンプカットを駆使したリズムのいい編集。ひたすら観客をアゲにかかるダンスシーンでの映像効果とA.R.ラフマーンの音楽(アクションやドラマパートにおける音楽の使い方も抜群)。ロボットのアクションなどもろもろでのCG。またテンポのいい脚本もその一つだ。自国文化の風刺も効いているし哲学的ですらある。
そして演じるのはインドの大スター、ラジニカーント。ヒロインは超絶美人アイシュワリヤー・ラーイ。この2人の感情表現も見事でチッティが恋に落ちるまさにその瞬間やアイシュの健康的な色気と豊かな表情。これだけでも一見の価値ありだ。
娯楽映画として圧倒的完成度を誇るこの「バカ映画」に注ぎ込まれたのはそんな知恵と技術とスターなのである。
公式サイト

トロールハンター

ノルウェー産のモキュメンタリー映画。3人組の学生がビデオ片手に怪しげなオッサンの後をつけると山奥でトロールに遭遇する。そのオッサンはなんとノルウェーで(世界で?)唯一のトロールハンターだった!それを知った学生はオッサンと行動を共にしそのハントに命がけで密着取材する。
このオッサンは『ハンター×ハンター』で言うところの珍獣ハンターですね。ていうかトロールに特化したトロールハンターですね。タイトルまんまですね。トロールはやっぱり暗黒大陸からきたんですかね?スミマセン関係ないですね。休載してるもんでつい……。
このオッサン、初めこそ「オレに関わるな」と無愛想なんですが、学生らが初めてトロールを見てからは親しげにいろいろ教えてくれるようになるんですね。この仕事ってばやっぱり極秘事項らしいんですが命がけの割に待遇があんまよくなくて、それがどうやらご不満らしいんですよ。んでそのストレスで「もういいや、撮れや」となるんですね。でそれからひたすらトロール狩りするわけなんですけどすごく大変そうなんですね、やっぱ。くっさいトロールの体液を体に塗りたくったり、囮になっておびき寄せたり、時にはぶっ飛ばされたりなんかして。オッサンもういい年なんですよ。ぶっ飛ばされたときはマジで心配しました。でこのオッサン、唯一のトロールハンターな上におもろいオッサンでもあるんですよ。いやオッサンはすごく真剣なんですけど、予想外の設定をかるーく口にするもんで思わず笑っちゃうんですね。珍しい職業に就いてる人の話っておもしろいですからね。トロールを退治すると書類を書かないといけないんですけど、そのときに設定を紹介するというのもうまいやり方だと思いました。でこのオッサン、唯一のトロールハンターな上におもろいオッサンでしかもカッコいいオッサンなんですよ。特に最後のトロールと対峙するときですね。相手はなんと超巨大60mのトロールです。20階建てのビル相当ですね。そいつにたった一人で立ち向かうわけですよ。カッコいいですねー。ヒーローですね。
というわけでとても楽しかったです。日劇のでかいスクリーンで観れたのもよかったです。

※ネタバレあり
ノルウェーの伝説に真っ向から挑む! 映画『トロール・ハンター』VFXメイキング

リミットレス

ハングオーバー』シリーズのブラッドリー・クーパー主演。うだつの上がらない男が偶然街で出会った元義理の弟から譲り受けた薬を飲んだら脳が覚醒してイケイケになる、というストーリー。
この薬というのは「普段20%しか使われていない脳をフル活用させる薬」なのである。この「普段20%しかry」というのは割とよく聞く話でその数字もマチマチでもっと低い数%だったりする。で、もしそれが100%フル活用できたらどうなるのか?というのは夢のある話でわくわくする反面、「常に100%使うと身を滅ぼすよ」という教訓的なところに着地するものだ。本作ではそれが薬物による効果なのでなおさらである。「100%使うのはよくない説」はほんとかどうかは知らないが個人的には何事もあんまり頑張りたくない性格なのでそれは「いい話」なのだが、(結末に触れてます→本作はなんとそれを裏切るかたちで終わる。一種のドラッグモノであるにも関わらず、そのようなラストを迎えるというのには意表を突かれた。BD、DVDともに“別エンディング”が収録されているが、言い回しが違うのみで結果は同じだ。
本作一番の魅力はやはりそのカメラワークだろう。高層マンションの高層部から一気に下まで降りたかと思うとそのまま市街地を車の中を通りながらトラックアップでぐんぐんと突き進む。薬を飲んで覚醒されているときは視界が360度になり、テキパキと仕事をこなすシーンでは『NEXT』のように主人公が分身し、執筆するときには文字が空から降ってくる。主人公の視点ないし脳内を覗いたかのような映像の数々はとても面白かった。ずいぶん若い感覚に感じたが監督のニール・バーガー(マックの新商品のようだ)は48歳だった。
いろんなブラッドリー・クーパーが見れるので彼のファンは必見。それにしてもブラッドリー・クーパーは今回も記憶を飛ばしていた。彼には記憶をなくしやすい俳優としてこれからも記憶をとばしつつ観客の記憶には残る俳優としてこれから頑張ってほしいと思う。……なんだこの締めは。

中学生日記

ツイッター上では、中学生が妊娠した担任を流産させようとする映画『先生を流産させる会』の公開が決まったことで良くも悪くも大変話題になっているが、今回はそれとは真逆の呑気な中学生モノを紹介しようと思う。
今K’s cinemaでは「にほんのうた フィルム映画祭 〜やれることからコツコツと!東日本大震災復興支援〜」というイベントをやっていて昨日は山下敦弘監督特集だった。上映されたのは『黄金虫』『土俵際のアリア』そして『中学生日記』。『黄金虫』はPV、『土俵際のアリア』と『中学生日記』は短編ドラマだ。どれもとてもおもしろかったのだが中でもキレッキレだったのが「あるあるネタ」をドラマ化した『中学生日記』である。


ニューシネマワークショップの実習作品として撮られた本作だがその面白さは彼のメインの商業映画と見比べても遜色ない、むしろ「笑い」に特化している分「可笑しさ」では一番なのではないか。全編とにかく笑える。とにかく笑えるのである。劇場で観たときはスクリーンに映す出された瞬間に笑いが起き、そしてそれは絶えることがなかった。
5つのエピソードで構成された本作はそのどれもが自らの思い出とリンクし、またそれが王道なものであるためもし実体験と結びつかなかったとしても誰もが共感できるものだ。本作はそのタイトルに反して現役の中学生は一人も出てこない。中学生っぽくしてはいるのだが強引さはない。だからこそ面白い。逆手に取っているようで中学生にも見える。この絶妙な加減はさすがである。
登場人物には皆あだ名がついているのだが、それがいかにも中学生が考えそうなあだ名で秀逸。『先生を流産させる会』然り中学生のネーミングセンスは全くどうなってるのか。大した発想力である。本作では誰がそのあだ名を考えたのかわからないがその言語感覚をいまだに持ち続けている大人がいるとは奇跡といっていい。クラスのヒエラルキーの描き方もうまい。誰も彼もがクラスに1人はいる、無個性なようで個性的なキャラクターばかりである。これは発見というか再認識というか。当時はクラスメイトがそんなに個性的だとは思っていなかった。しかしこのような形で客観視するとそこには個性しかないといっていいほどに個性的な奴らばかりだったのである。
また各エピソードの1つ1つが1コマの授業だとすると間にあるのは……そう、休み時間だ。これもまた抜かりない。1分程度の短い時間でも“うんこネタ”“悟りネタ”など瞬発力の高い鉄板ネタが盛り込まれる。
中学生の空気感を丁寧に掬い取り、49分間爆笑必至。当時13歳だったすべての人が見るべき傑作。

 映画史に残る大爆笑映画・山下敦弘監督作『中学生日記』を、すべての観客が見逃さないための覚書


中学生日記 [DVD]

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ヒューゴの不思議な発明

3D字幕で鑑賞。原作は本屋でちょろっと立ち読みした程度。
まず冒頭の映像に驚かされた。駅のホームからヒューゴ少年がいる時計盤の裏まで、そして歯車がひしめく時計台のその内部を流麗なカメラワークで捉え、3Dというギミックを完璧に使いこなしている。この間セリフをほとんど使わないことで映像そのものの面白さを際立たせ、またそれがこれから語られる古典の面白みであるというメッセージでもある。この冒頭が特徴的なのはカメラが動き回る長回しが用いられている点で、本編でも後々語られることだが映画初期(それこそメリエスのころ)は定点カメラで撮った映像を編集でつなげるのが映像のマジックであり面白みであったと思う(技術的にそれしかできなかったともいえるけど)。だが今はいかにワンカットを効果的に使うかが映像のマジックになっているところがあって、だからこそこの冒頭は3Dのギミックの面白さに加え現代的な映像マジックとしてのワンカットでもあるのだと思う。こういった点にも映画史の流れや変遷を感じた。……なんかわかりづらいかもしれませんが「とにかくよかったヨ!」ということです。
数々の古典がそのまま引用され、またときにそれを模倣するあたりにはどストレートな映画への賛辞/リスペクトを感じた。3Dを使うことで、当時『列車の到着』を観た観客と同じ効果を現代の観客にも追体験させたのは面白い試みだったと思う。また“駅”があそこまで映画の舞台になる(なっている)というのにも改めて気づかされた。ストーリーには若干の弱さを禁じ得ないが観るなら3Dで見るべきだ。それも前のほうで。

ユゴーの不思議な発明(文庫) (アスペクト文庫)

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