情景は美しく、ドラマは小気味よく『ほとりの朔子』


深田晃司監督、二階堂ふみ主演。
時期尚早ではあるが、もったいぶってもなにもないので言ってしまえばコレが今年のベストである。1月にイメフォで観た時点でそう感じていたが、先日大森で観て改めて確信した。
大学受験に失敗した朔子が叔母の家で過ごす夏の数日間を描いた「バカンス映画」である本作はエリック・ロメールのそれである、というのはエリック・ロメールの映画をほとんど見たことのない私でもそれは感じたし、また監督自身の発言でもある。
過去作『歓待』は古舘寛治演じる怪しい男の登場によるドタバタをシリアスに描いたブラック・コメディで、その異色さに咀嚼しにくい部分もあったのだが、今作はシンプルな青春モノでもあり非常にウェルメイドでニヤニヤできる作品に仕上がっている。
そもそも本作は二階堂ふみと知り合った監督が彼女を主役に撮りたいということで当て書きして書いた脚本とのことだが、エキセントリックな役の多い彼女を想定して書いたのが浪人生というのは現実に彼女が浪人したとはいえ、やや意外な印象を受ける。とはいえさすが今最もキテる女優(私調べ)、等身大で自然な役もきっちりこなし、水着を着ているシーンでは彼女の身体性、実存性を存分に感じられアイドル映画的な側面すらある。
物語自体はこれといったことはない、海辺の町で、自転車に乗り、人と出会い、話をし、「成長」とは呼べないほどのほんのちょっとの変化を感じさせる物語。涼しげな木漏れ日や水面に反射する景色、夏を感じさせる逆光に心を動かされる。また、画面サイズがスタンダードというのには初めこそ「この時代にあえて」という奇をてらった印象を受けたが物語が進むにつれ、それを選んだのも自然に感じられる。

現時点ではソフト化の予定もなく視聴は難しいが、『もらとりあむタマ子』などが好きな人に特に薦めたい傑作である。