アリス・クリードの失踪

J・ブレイクソン長編初監督作品。これまでは短編や脚本家として活動していたようです。「J」がなんの略かはわかりませぬ。名だたる監督(ノーランやダニー・ボイルなどなど)に匹敵するとまで言われておるようです。物凄いハードルの高さです。
刑務所で知り合った二人の男が用意周到に準備し金持ち令嬢を攫って監禁。父親を脅迫し金を毟り取ろうとする、というまぁよくあるお話です。あらすじが使い古されている以上、どういう展開でいかにサスペンスを盛り上げるかが重要課題となるわけですがそのあたり大変上手かったと思います。
綿密な下準備、大胆かつ周到に行われた金持ち令嬢の誘拐。これを冒頭の10分間でほぼセリフもなくやるわけですが、これが素晴らしいんですね。車の入手に始まり買い物、アパートの改装までを非常に手際よく見せ、その後に白昼堂々と行う誘拐では誘拐映画でありながらそこを見せないという演出に誰しもがタランティーノの『レザボア・ドッグス』を連想することでしょう。この10分で掴みはオッケーです。さらにその後の攫ったあとどうするか、という問題も非常にリアリティを持って描かれるわけです。プロフェッショナル然として淡々と行われる作業から事前にキッチリと計画が練られていたということもわかります。ここまでで物語の土台ができたわけです。
一段落したあとはこれまでとは対照的に会話で持って人物を掘り下げていきます。ここで誘拐犯の一方が怖気づく様子が描かれるのですが、それが表面通りの怖気ではないこと、また中盤では何故そんなビビりを主犯の男はパートナーにしたのかということにも説明がなされちょっと意外な展開を迎えるんですね。そこからさらに一捻り二捻りの展開を経ていくわけなんです。
こうした意外性のあるストーリーに加えてサスペンスの演出も上手く、「スープ・タイムリミット」とそこからの「流れないから・・・」は特に素晴らしかったです。しかもそれが前フリになっているという仕掛けもスゴイ。
そしてこの映画、出演者はたったの3人なのです。例えば最近でいえば『127時間』なんかはほぼ1人でしたがところどころに脇役が出ていました。しかしこれは完璧に3人しかでません。そしてその3人の演技にも張り詰めたものがあり、誘拐されるアリス・クリード役のジェマ・アータートンは体当たりで臨んでいます。
また様々な映画へのオマージュというか、そのあたりも意識されていてそういった楽しみもあったりします。必見!