奇跡

是枝裕和監督最新作。シネマライズで観たのですが、上映終了後には監督のティーチインもあってかかなり入っていました。
今年の3月12日(!)に開業した九州新幹線を題材にした物語。親(父:オダギリジョー 母:大塚寧々)が離婚しそれぞれに引き取られ離れて暮らす兄弟(まえだまえだ)が「九州新幹線の一番列車がすれ違うとき奇跡が起きて願いが叶う」という噂を信じ「また家族4人で暮らす」という願いを叶えるためその場に立ち会う旅にでる…というもの。
僕は是枝作品が非常に好きなのですがこの映画は「なんかJRの宣伝くさいな」とか「まえだまえだが主役はどうなんだろうか」と不安要素があったのですが、これがまたとても素晴らしい作品でした。傑作です。
ストーリーははっきりいってしまえばなんの変哲もないただの子供の日常なんですが、だからこそ笑えるし成長を感じられるんですね。カメラを通して伝わる子供への暖かい眼差しは、子供が生まれた今の是枝監督そのものです。
主役である子供たちは皆オーディションで選ばれたそうで中には演技初心者の子もいるそうなのですが自然体な演技がとてもよかったです。是枝監督は過去に『誰も知らない』でも子供を主役に据え、柳楽優弥をカンヌ最優秀主演男優賞に導いているのでその辺の演出面はさすがに冴え渡っています。また『誰も知らない』がネガティブな方向性であったのに対し本作はその逆を行くポジティブな子供映画となっています。子供たちには台本を渡さずその日その日に口頭で説明をしていたそうですが、主役のまえだまえだは監督の東京弁大阪弁に変換し話しておりそれが奏功したとのこと。*1
また大人たちは豪華な役者を揃えておきながらあくまで子供主体なところが良いですね。長澤まさみをだしておきながら彼女のアップがないというのは非常に正しかったと思います。これには祖母役の樹木希林のアドバイスもあったらしいです。*2最近は当てがきが多いらしいので当然の如く皆ハマり役でした。
音楽もこれまでとはちょっと違い、明るくポップな印象です。カメラに関しても劇映画然としたところと手持ちカメラを用いてのドキュメンタリータッチな部分の使い分けが的確で、カメラに合わせて子供を動かすのではなく、子供に合わせてカメラを動かす演出は子供の瑞々しさを表現する上で最良だったと思います。
これ見よがしに新幹線をフィーチャーすることもなく「宣伝くささ」といったものは一切ないと言っていいでしょう。そのシーンですらカメラが捕らえるのは新幹線ではなく子供なのです。おすすめです!



*1:ティーチインでの話

*2:パンフレットによる