息もできない

先日観に行き損ねた本作。終映ギリギリでなんとか観ることができた。
チケットを買い、席につき、しばらくすると場内が暗くなり予告篇が始まったとたん違和感を感じる。ん!?ピントがあってない!しかしまあ予告だけだろうと思い、しばしそのままボケボケの映像を眺める。そして本編。オーマイガッ!どうなってんだ!本編までボケてやがるぜ!ざわめく場内。おばちゃんがすっくと立ち上がり係員へ知らせに走った。その甲斐あって数分後、やっと正常に観ることができた。
主人公サンフンによる暴行シーンで始まるこの映画*1。これは冒頭だけに留まらず、サンフンはこの後もひたすら人を殴り、蹴り、そして罵りつづける。これらの行為が彼にとって唯一とりうる他者とのコミュニケーションなのである。それにより彼の暴力は単なる痛めつけるための暴力ではなく、それはときに愛情を伴ったものとなる。サンフンはそのチンピラ然とした見た目や、その暴力的な性格から、一見すると鬼のようであるが、その根底では他者とのつながりを求めている。どんなにダメ親父であろうと肉親なのだ。日ごろ暴行を加えていたとしても、実際に死が近づいたときには自らを捧げてでも救おうとする。
そして女子高生のヨニもまた家庭環境に問題を抱えている。母親は目の前で殺され、父親はその死んだ母親が生きていると思い続け、弟はサンフンのような暴力性を持っている。そのような境遇にありながらも笑顔を失わずに強くあろうとしている。
そんな二人が、不器用な交流を通し信頼関係を育ませていく。それは愛情のようでもあり、友情のようでもある。その二人にサンフンの甥が加わって買い物へ行くシークエンスは満ち満ちた幸福感を放っていた。
サンフンを演じたヤン・イクチュンは他にも製作・監督・脚本・編集をこなしていたらしい。この韓国の新星には今後も期待!

*1:このシーンはボケてた…。