『そして父になる』100%という統計

是枝裕和監督最新作にして第66回カンヌ映画祭審査員賞受賞作である『そして父になる』を観た。受賞から4ヶ月、やっとの公開である。受賞により多少公開日は早められたものの開きすぎなのではないか?せっかく箔がついたのにもったいないと思う。ただフジテレビが製作に名を連ねているので宣伝はかなりしているようだし、福山雅治が主演というのもかなりのセールスポイントとなっている。個人的に彼の笑顔はトム・クルーズのスマイルのようなものでそれだけでかなり強力な武器になると思うのだが、残念ながら本作のましゃはほぼ無表情だ!

一人息子の小学校入学を目前にしたある日、産院から電話で呼び出され行ってみると「子供を取り違えました。交換をお勧めします。」と言われ途方に暮れる。本当の息子が育った家族はまるで正反対の家庭でどうにも気に入らない。さてどうしたものか。というのが宣伝でもさんざん言われているストーリーである。このような取り違えがあった場合血縁関係と過ごした時間が天秤にかけられるものの、100%血を選ぶというのが過去の実際の統計データとしてあるようだ。
主人公側を一流企業に勤め都心の高層ビルに住むエリート、相手側を田舎町の電気屋を営む一般として描き、葛藤・対立を図式的にわかりやすくしたのが海外ウケしたのではないだろうか?感情の機微や直接には描かれないそれぞれの登場人物のバックボーンはこれまでの是枝作品よりも浅く、見えづらいものになっているように感じた。おそらくそれはメインに描く人物の多さが原因だ。バランスを意識したのか母親の心情に寄り添う場面も多くそれが逆に消化不良に感じた。
是枝作品といえば撮影監督に山崎裕なのだが*1今回は写真家の瀧本幹也を迎えている。どうやらデビュー作『幻の光』のころから知り合いだったようだ。キャストでは冒頭にも書いたが福山雅治が主演。シナリオができるより先に決まったらしい。オープニングの面接でのしゃべりは阿部寛のようであった。常連の樹木希林は脇役ながらも演技なのか地なのかわからない相変わらずっぷりを披露。さらに故・夏八木勲の登場に感激。子役含めキャスト陣は完璧といえる。
正直なところこれまでの作品群のなかで抜きんでてるとは言い難いが、感動作ではあるし、すべての親と子が想像してみる価値あるテーマであり、本作をきっかけに他の作品にも触れるといいと思う。銃撃戦もあるぞ!

最高傑作『歩いても歩いても』のブルーレイは北米版(クライテリオン版)で出てます。

*1:全てではない

イノセント・ガーデン

韓国のパク・チャヌク監督によるハリウッド・デビュー作『イノセント・ガーデン』を鑑賞。18才の誕生日に大好きな父が死に、それをきっかけに存在すら知らなかった父の弟が現れ異変が起きる、というストーリー。ヒッチコックの『疑惑の影』を元にした脚本らしいがそこにデ・パルマの『キャリー』を足したような印象。
これまでの作品群と比べても遜色のないむしろ洗練されてさえいるのでパク・チャヌクのファンは必見といえる。異国の地かつ他人の脚本でありながら、彼らしい官能的で暴力的な作品に仕上がっているのは、それもそのはずでかなりシーンを付け足しているようだ。しかも制作スタジオからの要請で。詳しくはココ。つまり本作はハリウッドにおける習作などではもちろんないし、描写を抑えたわけでもなくフルスイングなのである。
そもそもストーリーテリングは超一流なわけだから、そこに本場ハリウッドのキャスト、スタッフが加わればよりよくなるのは至極当然といえる。中でも主役のミア・ワシコウスカはこれまでのなかでベスト・アクトと言える演技を見せている。内気な性格故に言葉数は少ないが表情で雄弁に語り、良質な生地のゆらめくスカートがそれを引き立て、冒頭で語られる彼女の「研ぎ澄まされた感覚」は大々的な伏線として機能するわけではなく、常人ではないことを感じられるよう随所にちりばめられている。直接的にエロいシーンはミア・ワシコウスカのシャワーシーンぐらいだろうか(一瞬、乳首も見える!)。だがそれ以上にピアノでの連弾シーンや靴を履かせられるシーンのエロスが勝る。
不満もないわけではない。本作は主人公インディアの一人称で語られるが中盤のあるシークエンスでそこから離れてしまうので人称にズレを感じた。ここに関してはない方がより不気味さが増したのではないかとも思う。
ともあれ少女の特殊な目覚めを描いた成長譚として傑作である。

第5回ちば映画祭へ行った

地元千葉で開催されるその名の通りの映画祭「第5回ちば映画祭」に行きました。前夜祭含めると3日間のイベントですが僕が行ったのは最終日の1月27日(日)のみです。
この日上映されたのは

・くそガキの告白
・Kick My Sweet 13/ロング・サマー・スクール
・姉ちゃん、ホトホト様の蠱を使う/純情NO.1
・チレラマ〜CHILLERAMA〜

の計6本。
今回一番の注目作は『くそガキの告白』でした。おもしろかったです。鈴木太一監督の半自伝的内容のようです。キングオブコメディの今野さんが主演なのですがかなりいい演技をされていて驚きました。観客をイラッとさせる表情がうまいです。全編に亘って笑いもおきていたし、特にラストの長回しは圧巻。脚本や構成が荒れ気味ではあるんですがその辺は監督から説明があり、自覚はあったようです。映画自体もおもしろかったのですが、監督本人もかなり卑屈でユーモラスな方でした。
『ロング・サマー・スクール』は震災を受けての内容でした。パラレルワールドにおける奇妙な共同生活が、説明的な部分は排除されて展開していきます。撮影や編集がよかったと思います。
『姉ちゃん、ホトホト様の蠱を使う』は観念的でダークな作風。『純情NO.1』はそれとは打って変わってコメディでした。どちらも長宗我部陽子さん主演なのですがとてもいい女優さんだと思いました。とくに低めの声が魅力的です。
『チレラマ〜CHILLERAMA〜』は、精子怪獣、熊男、ナチ製フランケンシュタイン、ウンコ、ゾンビで構成されたとにかく下品なオムニバスムービー。とにかく(わざと)やっすい画で品性と知性に欠けた映像が続きます。そこには好奇心と嫌悪感、肯定と否定が同居するのを感じました。またそういった過激な映像に加えてメタ的な構成も取り入れてくる手数の多さがあります。

これら様々なジャンルの映画を一日で観るのはかなり疲れましたがどれもおもしろかったです。まだまだ小さい映画祭なので今後も観守っていきたいと思います。

『テッド』 愛は魔法

初週1位という意外なスタートを決めた『テッド』を鑑賞。土日は満席で観れませんでしたので平日に鑑賞しました。基本的に洋画は字幕で観るんですけどコメディだけは吹替の方がいいと思っているので吹替版を鑑賞。
友達のいない少年ジョンはクリスマスプレゼントでもらったテディベアに「命が宿ったら」と願ったところ、それが叶い、親友としてともに成長し中年になった今、というところから映画は始まります。ツイッターでは訳仕方についての意見が目立っていたためダメなのかと思いましたがおもしろかったです。R15+指定ということもあり結構キワドイ下ネタが多いのでカップルより同性同士の方が笑いを我慢せずに観れる気がします。


以下内容に触れます。



本作において超ファンタジックな存在であるテッドとはそもそも何者なのか?テッドとはジョンとロリーの関係性の象徴なのです。彼は8歳のころからジョンとともに過ごし、中年になった今ではジョンとジョンの彼女のロリーとともに3人で暮らしています。3人一緒に寝るとき。テッドは端っこではなく付き合ってる2人の間に当然のように入ってきます。これは2人の関係を結ぶ存在だからです。2人が留守の間にデリヘル嬢を呼び部屋にウンチをさせるなどかなり勝手なことをします。この幼稚さは2人の関係がまだ未熟なためです。ある日、彼女がテッド抜きの関係を望んだためテッドを追い出すという事件が起きます。すると2人の関係は悪化し、テッドの体は傷ついていきます。そしてジョンとロリーが別れると、ある事件によりテッドの体は真っ二つになり魔法が解け死にます。そんな状態のテッドを2人で縫い合わせることにより、1度は死んだテッドを生き返らせ、同時に2人の関係もまた修復されるのです。下ネタのオンパレードでありながら俯瞰で観ると「愛は魔法」というかわいいメッセージになっています。

LOOPER/ルーパー

話題の『LOOPER/ルーパー』を鑑賞。タイムマシンが開発された未来から転送されてくる人物を殺すのを生業とする通称「ルーパー」が未来の自分と対決する、というストーリー。
おもしろかったです。割と大々的に宣伝され、公開規模も大きいようですがビデオスルーの可能性もあった気がします。要するに割と地味なんですね。褒めてますよ。制作会社の社名の出方からあの一発までで掴みはオッケーだったと思います。
設定がややこしいので世界観の説明に冗長になりがちなところをタイトな編集と乾いた撮影、懐中時計の音でスタイリッシュに仕上げていていいなと思いました。これに加えて主人公の甘いルックスと内面のギャップ、暴力描写、西部劇を型にしている点などからは昨年の作品『ドライヴ』を思い起こしました。
『ドライヴ』も『LOOPER/ルーパー』も主人公がこういう内面ならもっと無骨な人の方がはまりそうですが、あえて細い印象のあるライアン・ゴズリングやジョゼフ・ゴードン=レヴィットを使うところに映画のルックの決め手があったように思います。
監督・脚本を担当したライアン・ジョンソンはタイムトラベルを題材にしていはいるものどうやらそこにはあまり興味がないようです。劇中でもはっきりと「メンドクサイ!」と言っていますし。その割にはループの件を丁寧にやっているんですが…。どうしてもタイムパラドックスにおけるツッコミどころは出てきてしまうわけですが、そういう方向性なのでその辺はまぁいいんじゃないでしょうか。タイムパラドックス以外でもツッコミどころはありますが、おそらく撮りたい画が先にあったのでしょう。中盤ないがしろにされるあの能力なんかを鑑みても撮りたい画に合わせて設定を合わせていったように感じました。
それにしても子役のピアース・ギャニオンくんは素晴らしかった。恐ろしかった。本作で最高の演技をみせているのは間違いなく彼です。そもそもあまりかわいくないというのもポイントですね。
一番気になったのはバイクのデザインですね。いまだに未来のバイク=浮くってのはどうかと思います。ある種夢ではあるんですけど既視感がありすぎました。
ラストのあの選択についてはかなり暗い判断だと思います。

決定!映画ブロガーが選ぶ2012年ベストムービー!!

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
新年最初の更新は恒例の「映画ブロガーベスト10」です。今年も映画ブロガーの皆様のベスト10を集計させていただきましたので発表します。早いもので3回目です。
集計対象は僕が12/31までにブクマしたエントリーです。合計128作品、27名です。
基本ルールは

・1人上位10本までをカウント。
・1位10点から始まり10位1点
・旧作を除いてそのままの順位で集計。
・順不同や○○枠は一律5.5点

となっています。これでは処理できないものは基本ルールに近いやり方で独自に集計します。
1年間に多くの映画を観るブロガー厳選ですので必ずやお気に入り作品が見つかるでしょう!
では以下ランキングです。タイトルをクリックで予告に飛びます。
1位 桐島、部活やめるってよ 90.5点 2/15にBD・DVD発売
出ました桐島!多くのブロガーから高い支持と共感を受け堂々の1位!


2位 サニー 永遠の仲間たち 75.5点 BD・DVDあり
口コミで広がった韓国のガールズムービー!切なくもかわいい映画です。


3位 アベンジャーズ 49点 BD・DVDあり
アベンジャーズ アッセンブル!2012年最大のお祭り映画!


4位 007 スカイフォール 48点 公開中
シリーズ最高傑作との呼び声も!ムードある映像美で魅せる!


5位 ホビット 思いがけない冒険 46点 公開中
中つ国再び!『ホビットの冒険』をPJが映画でリイマジネーション!


6位 ミッドナイト・イン・パリ 37点 BD・DVDあり
おしゃれでロマンチックな夢物語!「1920年代のパリにタイムスリップ」という設定の魅力!


7位 ダークナイト ライジング 36点 BD・DVDあり
デシ、デシ、バサラ、バサラ!ノーラン版バットマンの完結編!


8位 アルゴ 34点 3/13にBD・DVD発売
フィクショナルな実話を元にした脱出映画!メタ視点と再現性の高い映像が素晴らしい。 


同8位 戦火の馬 34点 BD・DVDあり
とにかく馬がカッコいい!存在感、演技力も抜群!


10位 裏切りのサーカス 30点 BD・DVDあり
ジブいおじさんの地味ながら重厚なスパイ映画!「リアル路線」という言葉は本作に使うべき!


という結果になりました。とにかく今年は『桐島』の年でした。票数でも1位です。完成度もさることながら共感を呼んだことがポイントだったようです。
例年通り票数版もつくりました。5位までをピックアップです。


という結果です。
集計させていただいた各エントリーへはこちらからどうぞ。*1

残りのお正月休みはこれらの映画を観て過ごすのもいいんじゃないでしょうか?

*1:皆様毎年楽しく集計させていただいてます、ありがとうございます。

2012年公開映画ベスト10

どうも。この時期恒例のベスト10です。対象は今年初公開作品。今年の劇場鑑賞数は69本、ソフトで観たのが7本の計76本。旧作の劇場&ソフト鑑賞は71本で新旧合わせると147本でした。毎年これくらいですね。頑張ればもうちょい観れそうなんですがついつい外出が億劫なもんで。VODなんか使えば便利なのかもしれませんが料金結構するんですよね…。では以下ランキングです。

1位 ロボット
2位 ホビット 思いがけない冒険
3位 ヒミズ
4位 戦火の馬
5位 それでも、愛してる
6位 わが母の記
7位 サニー 永遠の仲間たち
8位 プロメテウス
9位 夢売るふたり
10位 007 スカイフォール


『ロボット』はとにかく観ている間めちゃくちゃ幸せな気分になれました。もちろん完全版支持ですが、先に公開された日本公開版もうまいこと編集されていたと思います。

ホビット 思いがけない冒険』IMAX HFR 3D+ウィンブルシート仕様というものすごい鑑賞環境でした。とにかくおもしろかったです!ゴブリン戦でのピタゴラ感が堪りません。
ヒミズに関しては「染谷と二階堂の演技は情熱と感情ではちきれんばかりで、青春がスクリーンで爆発しているようだった。」というアロノフスキーのコメントに尽きると思います。
『戦火の馬』では馬の演技が素晴らしかったですね。そしてちょーカッコいい。馬がドラマを乗せて疾駆する姿に感動しました。撮影もさすがのカミンスキーです。
『それでも、愛してる』はまずテーマが個人的にすごく大事で、主人公の行動と周りのリアクションにリアリティがあってよかったです。ジョディ・フォスターには今後も監督業をやってもらいたいと切に思います。
わが母の記宮崎あおい目当てで観たんですが、オープニングの会話シーンでがっちり掴まれました。本作最大の魅力は人物描写とそれを体現する出演者の演技です。とても良い作品でした。
『サニー 永遠の仲間たち』ツイッターなどで大絶賛されていたのを受けて観たんですが、評判通りの映画でした。これもまた役者の演技がよかったです。音楽の使い方もいい。シームレスに時代が変わるのもいい。おもしろかったです。
わが母の記』と『サニー』は金持ち主人公が鼻に付く方がもしかしたらいるかも・・・。
『プロメテウス』は今夏の超大作映画の中で一番おもしろかったです。ハッタリ感が抜群で各種ガジェットもとても気に入りました。全体的にヌルッとした画質もよかったです。
夢売るふたりもまた役者の演技がよかったですね。重量挙げ選手を江原由夏という新人女優が講演してるわけですが「役作りのためにやった重量挙げでかなりのセンスを発揮」というエピソードも好きです。またかなり毒気の強い会話が恐ろしい。エロシーンは代々木忠作品を参考にしたそうです。
『007 スカイフォールは完璧なロケーションとR.ディーキンスによるキメッキメの画が素晴らしいです。特に引きの画がうまいんですね。エスタブリッシュショットにシビれました。ダニエル・クレイグのくたびれたボンド像も良かったです。
という感じです。他には―――『アーティスト』『マダガスカル3』『トガニ』『ウォリスとエドワード』『高地戦』―――あたりがその時の気分しだいでベスト10入りする感じです。他にも面白いのはたくさんありましたがキリがないので……。あぁ『メランコリア』と『KOTOKO』はちょっと怖くて観れてません。
今年はIMAXシアターで鑑賞することが結構あったのですが鑑賞環境は映画の面白さに直結するというのを改めて感じました。ランキング内でいうと『ホビット』『プロメテウス』『スカイフォール』がIMAXでの鑑賞です。今年は特に後半、映画館の閉館ニュースや大手シネコンによるスクリーンカーテン問題などが目に付いたのですがやはりいい環境で観る場は必要だと思いました。
また旧作から1本だけ選ぶと『81/2』がおもしろかったです。「ニーノ・ロータの映画音楽が好きだ。」
それではよいお年を。